屋敷は天明8年(1788年)の大火で全焼し財産の大半を失っています。これを教訓とし、精緻な防火建築を備えます。

軒先には防火幕

屋敷の外壁は城郭と同様の防火性に優れた漆喰塗りで、木部は極力、露出しないよう丹念に塗り込められていますが、庭に面した軒先まで漆喰塗りすると、風情が損なわれます。
そこで、垂木の軒先先端に釣り針状の金具を取付け、近隣火災の発生時には、これに濡れたむしろを吊るして防火幕とし、障子等の燃えやすい建具に火の粉が付着しないようにしました。

濡れむしろを掛けた釣り針状の金具

窓には防火戸

京町家に多く見られる虫籠窓(むしこまど)は、その形状が虫かごに似ていることから、その名があります。
虫籠窓には、左右にスライドする土戸(防火戸)が備えられ、開口部をぴったり閉鎖し、火の粉の侵入を防ぎました。

採光時の虫籠窓

火災防御時の虫籠窓

櫓(やぐら)階段

屋敷の一部は三階になっていて、奥の襖を開けると大屋根へ登れる階段が隠されています。
古図面によれば、この階段から大屋根に登ると、櫓が設けられていました。櫓からは付近一帯が良く眺望でき、近隣火災の状況をいち早く知りました。
また、櫓から屋根上をつたって天窓から屋敷内に戻る避難路でもあります。

三階の奥に階段が隠されている

階段から大屋根の櫓に登れる

苫舟の間(とまぶねのま)

当時、屋敷のすぐ傍にきれいな小川が流れており、川面に棟から突き出すように作られた部屋で、小川の水を吊り上げ二階の防火用水、生活用水に使いました。
入口は故意に段差をつけて桟橋から舟に乗り込むように入り、天井は屋形舟そっくりにして、部屋に踏み込むとギコギコと艪が軋る音が聞こえてきます。
川に漕ぎ出す気分を醸し出すためでしょう。遊び心も忘れていません。

苫舟の間

突き出た窓に滑車が備え付けられている